2002年 研究論文

伊澤康一・高橋達・斉藤雅也・宿谷昌則:人体エクセルギー収支の採冷空間と冷房空間における比較、日本建築学会計画系論文集、2002年6月、pp.31-38。

日射しゃへい・断熱・蓄冷を施した建物では、できるだけ高い温度の冷水を用いた冷房システム、すなわち「採冷」システムが可能になるはずである。この論文では、このような採冷システムの可能性を、人体エクセルギー収支の計算によって明らかにすることを試みたものである。採冷と、従来の対流を主とした冷房とを比較したところ、人体が受け取る冷エクセルギーの放射成分と対流成分の大きさに著しい違いがあることがわかった。

 

宿谷昌則:環境情報学のこころみ、武蔵工業大学環境情報学部 紀要 第3号、2002年、pp.47-56。

 『主体となる何かを取り囲んで存在する「もの」の集まり、そして主体を取り囲んで起きる様々なこと』としての環境、『主体となる何かに関わる「こと」の知らせ』としての情報を、できるだけ具体的な事例を用いて説明し、環境情報学の見方・考え方を示した。環境空間が入れ子構造を成していること、そこにはエネルギー・物質の流れに加えて情報の流れが存在すること、環境と情報が相互作用することなどを示した。

 

M. Shukuya, “Introduction to the Concept of Exergy – for a Better Understanding of Low-Temperature-Heating and High-Temperature-Cooling Systems -”, 武蔵工業大学 環境情報学部 紀要 第3号、2002年、pp.94-110

 建築環境システムとの関連付けを行ないながら、熱力学概念エクセルギーを解説した。エクセルギーは、「消費」を明示的に表現できる概念である。暖冷房システムに限らず、人体などの生物システムもエクセルギーの取り入れ、その消費、消費の結果としてのエントロピー生成、生成エントロピーの排出という一連のプロセスによって成り立っている。このような見方によって建築環境システムを捉えることの必要性を、快適な環境空間の形成との関係において述べた。

 

M. Shukuya, “Rational Energy-Saving Measure Changes Heating Exergy-Consumption Pattern Dramatically”, LOWEX NEWS, IEA-ECBCS-Annex 37: Low Exergy Systems for Heating and Cooling of Buildings, July 2002, pp.2-3.  

 暖房や冷房システムのエクセルギー評価を具体的にどのようにして行なうかについて、一般向けに記述した紹介記事である。建物外皮から室内空気・暖房装置・ボイラー・発電所までの全体をシステムとして記述し、サブシステムの中でエクセルギー消費パターンがどのように異なるかを検討することが重要であることを紹介している。このような検討により、建物の断熱性・蓄熱性の開発と機器の開発の連携を図ることが大切であることが明らかになる。

 

K. Isawa, T. Komizo, and M. Shukuya, “Low Exergy Systems Will Provide Us With The Lowest Human-Body Exergy Consumption and Thermal Comfort”, LOWEX NEWS, IEA-ECBCS-Annex 37: Low Exergy Systems for Heating and Cooling of Buildings, July 2002, pp.5-6. 

 この速報記事は、人体エクセルギー消費と室内空気温度・平均放射温度について最新の研究事例を紹介したものである。従来の人体エクセルギー収支計算では、空気温度と放射温度を分離できなかったのを分離可能にしたこと、また、そのことによって、人体エクセルギー消費を最小とするような空気温度と放射温度の組み合わせが存在することが明らかになってきたことを紹介した。

 

宿谷昌則:自然共生建築における環境調整手法の分類、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.633-634。

 照明や暖房・冷房の技術にかかわる議論でしばしば出てくる“負荷を減らす”あるいは“外乱の影響を減らす”といった表現は、アクティブ型のシステムが前提されている。そこで、アクティブ型のシステムに応じた ことば ではなく、パッシブ型のシステムに相応しい ことば を用いることが、パッシブ型のシステムの環境調整には重要であると考えて、ことばの整理を試みた。温房・採温・涼房・採冷・採涼などの定義と、これらのことばの相対的位置付けを行なった。

 

高成田恵介・伊澤康一・宿谷昌則:冷房のエクセルギー消費実測―「採涼」と「採寒」の比較―、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.567-568。

 十分な日射遮蔽を行ない、内部発熱も小さくし、対流による小さめの冷エクセルギーを供給することを「採涼」と呼び、日射遮蔽が不充分で設定温度をかなり低くして行なう従来型の冷房を敢えて「採寒」と呼んで区別することとし、「採涼」と「採寒」とで室内温熱環境や、エクセルギー消費パターンにどんな違いがあるかを明らかにするための実測結果を述べた。「採寒」に比べて、「採涼」ではエクセルギー消費がかなり小さくできることが明らかになった。

 

伊澤康一・小溝隆裕・宿谷昌則:人体のエクセルギー消費と温冷感(その1.不感・有感蒸泄に伴なうエクセルギーの定式化)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.571-572。

 人体のエクセルギー収支式において、放射と対流を分離して表現することに加えて、不感・有感蒸泄に伴なう「乾」エクセルギー・「湿」エクセルギーの取り扱い方を整理した結果を述べた。この整理によって、屋外と室内とで水蒸気濃度が異なる場合の計算が可能になった。人体エクセルギー消費の多寡は、屋外よりも室内湿度の違いによって大きく異なることを確認した。

 

斉藤雅也・伊澤康一・小溝隆裕・宿谷昌則:人体のエクセルギー消費と温冷感(その2.震え・有感蒸泄とエクセルギー消費)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.573-574。

 体温調節機能として働く寒冷環境下での「震え」や、暑熱環境下での「有感蒸泄(発汗)」が人体エクセルギー消費に及ぼす影響を考察した。人体にとっての環境温度が概ね15℃未満になると震えによるエクセルギー消費が発生し、また、環境温度が25℃を超えると発汗によるエクセルギー消費が発生することを示した。

 

小溝隆裕・伊澤康一・宿谷昌則:人体のエクセルギー消費と温冷感(その3.人体エクセルギー消費線図)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.575-576。

 定常的な温熱環境で、しかも外気空気温度・相対湿度が一定の場合について、室内空気温度と平均放射温度の組み合わせが人体エクセルギー収支にどのような影響を与えるかを明確にするために人体エクセルギー消費線図を作成し考察を行なった。冬季の典型的な条件における計算の結果、人体のエクセルギー消費が最小となるのは、平均放射温度が23〜26℃で、空気温度が16〜18℃の範囲であることが明らかになった。これは、暖房によって実現すべき室内温熱環境として従来経験的に知られている温度範囲に一致する。

 

大西正紘・近藤大翼・江頭寛基・伊澤康一・宿谷昌則:循環型屋根散水システムの日射熱除去特性に関する実測と解析(その1.実測の概要と結果)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.551-552。

 屋根に降った雨を貯水タンクに蓄え、晴れたときはこの蓄えた雨水を屋根に散水し、一部を屋根面で蒸発させることで屋根表面温度の上昇を緩和するシステムについて、仮設建物を対象にした実測を行なった結果を述べた。蒸発量と屋根表面温度・湿相当外気温度の関係を実測からもとめ、また、夜間に貯水タンク水温をかなり低下させ得ることを示した。

 

近藤大翼・大西正紘・江頭寛基・伊澤康一・宿谷昌則:循環型屋根散水システムの日射熱除去特性に関する実測と解析(その2.エクセルギー解析)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.553-554。 

屋根散水では、雨水の物質としての資源性と、日射などのエネルギーとしての資源性とを統括的に評価することが重要なため、エクセルギーの概念を用いて、散水の高価について分析を行なった。屋根散水は、水の持つ「湿」エクセルギーを積極的に消費することで、日射に起因する「温」エクセルギーを消費させることであることを定量的に示した。

 

森一顕・伊澤康一・宿谷昌則:放射冷却パネルによる採冷の研究(その4.土中冷エクセルギー利用の検討)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.597-598。

 土中の冷たさを利用して比較的高温の冷水をつくり、その冷水を室内の放射冷却パネルに通して「採冷」を行なうシステムの伝熱特性と、実現される温熱環境の夏季を通しての特性とについて数値解析を行なった結果を述べた。パッシブ手法を十分に施せば、土中のパイプ埋設深さを浅くすることが可能になり、また、土中の冷エクセルギーの取り出しに必要となるエクセルギー消費を小さくすることも可能なことを定量的に示した。

 

若月貴訓・竹内亜沙美・直井隆行・宿谷昌則:光環境調整行動に与える後得的明るさ感の研究(その1.30秒実験・20分実験と明るさ感の生得性・後得性)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.627-628。

 明るさ感の生得性・後得性を明らかにすることを試み、後得的明るさ感があるとすれば、光環境に関するライフスタイルとどんな関係があるかを探った。8人の被験者を対象にして、被験者実験・ヒアリング調査・自宅実測を行ない、それらの結果を総合的に考察した。光刺激の与え方が互いに異なる30秒実験と20分実験とでは、明るさ感と相関する物理量が異なることを確認した。

 

直井隆行・竹内亜沙美・若月貴訓・宿谷昌則:光環境調整行動に与える後得的明るさ感の研究(その2.後得的明るさ感と光環境体験の蓄積)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.629-630。

 光環境調整の行動に後得的明るさ感がもたらす影響を明らかにするために、ヒアリング調査と自宅実測から読み取れる被験者の日頃の光環境体験の蓄積と、20分実験における被験者の明るさ感・行動申告の結果に着目して考察を行なった。被験者の申告結果には、日頃暴露されていることの多い光環境の条件が反映することが確認された。

 

竹内亜沙美・若月貴訓・直井隆行・宿谷昌則:光環境調整行動に与える後得的明るさ感の研究(その3.後得的明るさ感と照明のエクセルギー消費)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.631-632。

 前報において、明るさ感と行動申告の関係から後得的明るさ感が存在することを確認したのを受けて、後得的明るさ感の違いが照明のエクセルギー消費とどのような関係にあるかを試算した。その結果、日頃の生活で昼光をよく利用している人は、小さなエクセルギー消費で十分な明るさを得る傾向があることを示した。

 

高橋達・宿谷昌則:開放系としての建築環境システムにおけるエクセルギーの計算方法、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.635-636。

 建築環境空間をエネルギーと物質の双方が出入りする系―開放系―と捉えた場合に必要となる化学エクセルギー・分離エクセルギーを組み込んだエクセルギー収支式を整理した結果を報告した。特に燃焼に伴なうエクセルギーの消費や熱エクセルギーの生産について整理した。

 

大森栄佳・宿谷昌則:夏季の住まい方と意識に関するワークショップによる研究、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.639-640。

 自然のポテンシャルを活かした住まい方を一般の住まい手が無理なく学び、実際に行動となって現われるのはどのような条件かを明らかにするために、ワークショップによる研究を行なった。ここでは、三組の母子を対象に行なったワークショップの結果を述べた。ワークショップの効果は、参加者が既に持っている意識や行動様式によって少なからず異なることがわかった。

 

隈元孝行・宿谷昌則:夏季における自然風と人工風の特性とその体感に関する比較研究、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002年8月、pp.641-642。

 「自然風」と「人工風」のそれぞれについて風速の測定と被験者実験を行なうことで両者の違いを見出すことを試みた。その結果、「自然風」と「人工風」の風速波形には見た目の違いがあり、また周波数分布にも明らかな違いが認められた。「心地よい風」との申告が現われた時間帯の風には自然風全体の周波数分布と同じような傾向があり、「心地よい風」の申告がなかった風には人工風と同じような傾向があった。

 

宿谷昌則:住環境教育とその研究の試み、日本建築学会大会環境工学部門・地球環境部門研究協議会資料集「地球環境時代における住環境教育のあり方―環境工学研究者はいかに貢献できるか―」、2002年8月、pp.23-26。

 住環境教育の目指すところは、資源の浪費をしない住まい方、浪費を伴わない方がむしろ快適な住環境が可能になることを知ってもらうことだとの視点に立ち、そのような視点からの住環境教育として効果が期待されるワークショップの試みから明らかになってきたことを紹介した。また、感覚から意識・行動にいたるヒトの一連の振る舞いを神経生物学的な視点から考察し、地球環境問題に関連した住環境教育の展開で変革が期待される人の意識あるいはライフスタイルの位置付けを試みた。

 

宿谷昌則:エネルギーの流れと物質の循環、日本建築学会編:地球環境建築のすすめ シリーズ地球環境建築入門編、2002年、pp.33-36。

 「地球環境建築」を考える上で基本的な視点となるエネルギーの流れと物質の循環について、開放系と閉鎖系の違い、環境空間の入れ子構造、流れの性質、循環の性質、環境に見られるリズムという視点から概説を行なった。流れと循環・リズムを豊かにするデザインが、地球環境建築のデザインの本質であることを指摘した。

 

Shukuya, M. & Hammache, A., Introduction to the Concept of Exergy - for a Better Understanding of Low-Temperature-Heating and High-Temperature-Cooling Systems -, VTT RESEARCH NOTES-2158, 2002, pp.1-41.

 国際エネルギー機関(IEA)の国際共同研究プログラムの成果報告書で、フィンランド建築研究所から出版されたものである。内容は、エクセルギー概念の解説と、低エクセルギー利用システム開発の可能性の議論である。エクセルギー概念が建築環境システムの記述に適していること、エクセルギー概念を用いることによって、暖冷房のための熱源・冷源の性質が明確になること、低エクセルギー利用システム開発のためには何が必要かを述べた。

 

宿谷昌則:エクセルギーの見方・考え方と自然共生建築、日本建築学会 環境工学委員会 熱小委員会 第32回熱シンポジウム「持続可能な社会における熱・光・空気のデザインと技術」―バイオクリマティックデザインの現在―、200211月、pp.51-57

 本論文ではまず、エクセルギー概念の特徴が「資源性」と「消費」を顕に表現できることを述べた。エクセルギー・エントロピー過程の性質を述べ、地球環境システムやパッシブ型の建築環境システムがその典型であることを示した。最近のエクセルギー研究の成果事例として、人体におけるエクセルギー消費の特徴、地中冷エクセルギーの放射冷却パネルへの利用などについて紹介した。また、暖冷房システムの再分類の試みについても紹介した。

 

宿谷昌則:技術の今と技術をめぐる社会・学術のつながりから何を読むか、空気調和・衛生工学、Vol.76 No.122002年、p.1

 空気調和・衛生工学の年報特集号の巻頭言である。技術や科学は社会との関係において発展するものであること、21世紀に入って技術や科学の細分化・精緻化に加えて綜合化が重要になることを指摘した上で、年報特集号はこのように読んだらどうだろうか‥‥と述べた。すなわち、粗くてもよいから個別の技術どうしの関係や学術研究の技術の関係を概観する読み方である。

 

     
     
     
   

武蔵工業大学 環境情報学部 ・大学院環境情報学研究科 宿谷昌則研究室
 
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