2005年 研究論文

宿谷昌則:環境建築の見方・考え方−からだとエクセルギーの視点から−、太陽エネルギー Vol.31 No.3、2005年6月、pp.102-108。

 環境建築とは、窓や壁・床・天井で構成される空間の内外に見出せる太陽エネルギーをはじめとする様々なポテンシャルをできる限り自然に活用できるような〈しかけ〉をもった建築と、そのつくり方、その住まい方の総称である。環境建築はしばしば、暖冷房負荷を減らし省エネルギーに寄与する建築技術の手段、あるいは環境問題を解決するための技術的手段と捉えられがちである。建築環境空間は、人が一生のうちで最も長い時間を過ごす空間であり、〈からだ〉の延長である。また、太陽エネルギーの利用とはエクセルギーの視点から見直すと、太陽エクセルギーの有効な消費であり、身近な環境には様々なエクセルギー源が見いだせる。本稿は、ヒトのからだの特徴を、特に環境との関係に着目して考察し、また、環境建築における熱の振る舞いをエクセルギーの観点から見ると、どのように見えてくるかを概説した。これは、2005年3月末に行なわれた日本太陽エネルギー学会総会における総合講演に基づいている。



宿谷昌則:「ヒト−自然共生建築」系の時間発展にかんする考察、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.549-550。

 建築環境空間における人の振る舞いを住まい方というが、それをヒトの「感覚−行動」プロセスと捉え、このプロセスが人体神経系の構造・機能の中でどのように位置づけられるかを述べた。脳の大きな特徴である可塑性が、過去の環境「記憶」と現在の環境「学習」を可能としており、自然共生建築と呼べるような建築環境空間においては、ヒトの生得的な情報(体温の変動や体内時計)と自然のポテンシャルを活かした住まい方という後得的な情報とが整合するように建築のハードとソフトとを用意することが肝要であることを指摘した。



宮崎賢一・明石幸一郎・宿谷昌則:照明方式への心理反応と過去の光環境記憶に関する実験(その1.実験概要)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.389-390。

 光環境に対する人の心理反応には光源の種類や照明方式による違いがあるのか否か、また、その心理反応には過去から現在までに曝されてきた光環境(以下、過去の光環境記憶と呼ぶ)が影響するのか否かを考察するための被験者実験を行なった。本報その1.は実験をどのように構成したかにについて述べた。実験は、異なる照明方式を備えた約32uの部屋5つを用意し、44人の被験者にこれらの部屋につくり出された光環境を体験してもらい、は明るさ感や部屋の印象などについて被験者の申告を得た。また、被験者は、5つの部屋を体験する前に、過去と現在の光環境体験にかんする質問に答えるようにした。



明石幸一郎・宮崎賢一・宿谷昌則:照明方式への心理反応と過去の光環境記憶に関する実験(その2.結果と考察)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.391-392。

 本報告その2.では、その1.で述べた実験の結果を示し、その考察を述べた。5つの部屋の中では、自然光で照明された部屋に対して、90%近くの被験者が「すぐ慣れた」と申告した。また、「落ち着く」「気持ちよい」の申告も多かった。44人の被験者は、過去の光環境体験と現在の光環境との組み合わせに応じて4つのグループに分けられ、過去の光環境記憶として自然光をイメージする被験者の方が、そうではない被験者に比べて、自然光による照明に対して「落ち着く」「気持ちよい」をより多く申告していた。



游明遠・生島充・石川雅規・伊澤康一・宿谷昌則:外断熱集合住宅における夏季の住まい方支援とその効果の調査、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.853-854。

 本研究では、外断熱集合住宅において住まい手が自発的に住まい方を改善していけるような支援を目的として行なわれた「住まい方支援学習会」を行ない、その結果が住まい方の改善として具体的に現れたかどうかについて調査した結果を述べた。学習会に参加した外断熱集合住宅の住まい手は、エアコンで冷房する場合の設定温度が一般に比べて高めであり、また使用頻度もやや低い傾向が見られた。学習会への参加によって、住まい方には何らかの変化があることが多く、例えば「窓の外側に日除けを取り付ける」ようになったり、「夜に窓を開ける」ようになったりなどの回答が多く見られた。学習会をまったく行なわなかった集合住宅では、入居前に比べてエアコンの使用頻度がかえって増していた。したがって、住まい方支援学習会は効果があると考えられる。



岩松俊哉・西内正人・徳永佳代・平賀智之・山田浩嗣・宿谷昌則:夏季における遮熱・通風の組み合わせと快適性に関する実験(その1.実験と測定結果の概要)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.605-606。

 断熱性の異なる二つの実験棟(一棟の床面積が約20uで、一方(従来棟)が新省エネ基準(1992年)、他方(環境共生棟)が次世代省エネ基準(1999年)で建てられている)を用いて、主として通風を行なっている室空間を被験者に体験してもらい、室内温熱環境と快適感の対応関係を調べた。本報その1.は実験の構成と基本的な物理量測定結果を述べた。実験は、2004年8月7〜10日の4日間、通風について3パターン、エアコン冷房について1パターンを対象として、1パターンについて1棟あたり2人の被験者に参加してもらって行なった。周壁平均温は、断熱・遮熱性に優れる環境共生棟のほうが従来棟よりも低めであり、特に夜間換気を行なった場合には、翌日の日中に室温が外気温よりも低めになることがあった。これは、屋外日除けと床下の蓄冷材の効果と考えられた。また、被験者の申告結果をまとめたところ、環境共生棟では風なしと感じつつ快適とする申告がかなり認められた。



徳永佳代・岩松俊哉・平賀智之・西内正人・山田浩嗣・宿谷昌則:夏季における遮熱・通風の組み合わせと快適性に関する実験(その2.周壁面から出る放射エクセルギーと快適感)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.607-608。

 本報その2.では、その1.に述べた実験で得られたデータに基づいて、空気温湿度・周壁平均温と快適感申告の関係を調べた結果を述べ、特に周壁平均温と放射エクセルギーの関係を考察した。被験者の快適申告の割合は、風なしの場合、相対湿度や室内空気温に比べて、周壁平均温との相関が強かった。そこで、周壁から出る放射エクセルギーを環境共生棟で夜間換気がない場合とある場合とについて計算してみたところ、夜間換気がない場合の日中は、周壁面から「温」放射エクセルギーが10〜20 mW/u出るのに対して、夜間換気のある場合は、「冷」放射エクセルギーが20〜30 mW/u出ることがわかった。これら放射エクセルギーの値と、風なし快適を申告した被験者の割合とを関係づけたところ、温放射エクセルギーが20W/u 出ているとほぼ100%の被験者が不快になり、冷放射エクセルギーが20 mW/u 出ていると90%以上の被験者が快適を申告したことがわかった。



平賀智之・岩松俊哉・徳永佳代・西内正人・山田浩嗣・宿谷昌則:夏季における遮熱・通風の組み合わせと快適性に関する実験(その3.風の振る舞いと快適感)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.609-610。

 本報その3.では、物理量としての風速と、知覚・認知としての風の有無、快・不快の関係を調べた結果を求めた。0.1 m/s 以下の風速でも「風あり」と感じることがあること、0.1 m/s 以下の風速で「風なし」と感じていても、快適と感じている場合があるこがわかった。また、風なしと感じるようになる風速の値が、その前の風ありと感じている風速の値の30%程度だと快適となり、24%程度だと不快になる傾向があった。風あり快適の風速のスペクトル分布は、小さな周波数で大きな振幅をもつ傾向があった。すなわち、大きくゆったりした風が、風あり快適の申告をもたらす上で重要であることがわかった。



西内正人・岩松俊哉・徳永佳代・平賀智之・伊澤康一・山田浩嗣・宿谷昌則:夏季における遮熱・通風の組み合わせと快適性に関する実験(その4.人体エクセルギー消費と快適感)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.611-612。

 本報その4.では、その1.〜その3.を纏めて、人体エクセルギー消費と快適さの関係を求めてみた結果を述べた。相対湿度が45〜65%の範囲で室内空気温と周壁平均温がいずれも31℃程度であれば、風あり・風なしのいずれの申告でも、被験者は快適を申告していたことをまず確認した。この条件で、皮膚表面の濡れ率を求めると、0.3〜0.35(かなり濡れている状況)であった。したがって、開放的な建築環境では、発汗蒸泄が起きやすく、周壁からわずかに冷エクセルギーが出ていることが重要であると考えられた。この条件で、人体のエクセルギー消費速さを求めたところ、2.3〜2.4 W/u であった。



滝口涼子・小山洋平・游明遠・生島充・石川雅規・宿谷昌則:吹抜けのある集合住宅の通風効果に関する実測、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.613-614。

 東京の大井町に建てられた5階建ての外断熱集合住宅に設けられた吹抜け空間とこの吹抜け空間に面する住戸内の空気の流れを、錘つき風船の動き方を観察するというプリミティブな方法で実測した結果を述べたものである。実測は2004年8月18〜19日行なった。この地域における両日の風向・風速の状況は、この集合住宅から約1.3km 離れた地上18mの位置で、南西向き4〜6 m/s であった。西側の住戸は東側に比べて相対的に通風性がよく、2階にある西向き住戸の一つについて風速測定値から換気回数を求めたところ、40回/h弱の値を得た。また、吹き抜け空間は無風時でも換気回数が1.3回/hほどになることを確認した。



小山洋平・宿谷昌則:圧力エクセルギーによるパッシブ換気の評価方法の検討、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.617-618。

 照明や暖房・冷房システムにかんするエクセルギー概念による記述は、この10年ほどに進んだエクセルギー研究によって可能になってきたが、換気のしくみを記述することを目指したエクセルギー研究はほとんど進んでいない。この報告は、換気システムのエクセルギーによる記述を試みた結果を述べた。換気において、空気を流動させる能力として高気圧エクセルギーと低気圧エクセルギーを定義して、風力換気・浮力換気のそれぞれの場合、また両者が組み合わされた場合の高気圧・低気圧エクセルギーの値を試算した。これらのエクセルギーは換気のしくみを理解するのに役立つことを確認し、また、これら高気圧・低気圧エクセルギーの値が熱エクセルギーに比べて著しく小さいことを確認した。



足立匡俊・津村真理・伊澤康一・宿谷昌則:緑地空間がつくり出す「冷たさ」に関する実測研究(その1.実測概要と温湿度の測定結果)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.627-628。

 夏季において、身近にある自然を活かすためには、建築群の周囲にある緑地がつくり出す「冷たさ」の物理的性質をよく理解する必要がある。本報その1.は、武蔵工業大学横浜キャンパスの南側に位置する保全林を対象にして行なった「冷たさ」にかんする実測の方法とその結果を述べた。実測は、保全林内の天空率の大小と林床の状態の異なる3ヶ所について行なった。保全林内の温度は、保全林にとっての環境(保全林周囲)温度より3℃ほど低く、その一方で、湿度の方は環境に比べて2g/kgほど高くなっていることがわかった。



津村真理・足立匡俊・伊澤康一・宿谷昌則:緑地空間がつくり出す「冷たさ」に関する実測研究(その2.保全林内のモデル化とエクセルギー解析)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.629-630。

 本報その2.では、実測結果に基づいて保全林内の3ヶ所について、それぞれの保有する熱・湿エクセルギーの値を求めた。湿エクセルギーの大きいところは、冷エクセルギーが大きめになること、乾エクセルギーが発生するところでは、冷エクセルギーが小さめで、条件によっては温エクセルギーが現われた。また、保全林内の一部分を系としてエクセルギー収支モデルをつくり、樹林からの蒸発が冷エクセルギーの生成に果たす役割を定量的に検討したところ、エクセルギー消費は主として日射の吸収により、葉からの蒸発があれば、「温」でなく「冷」エクセルギーが生成されることがわかった。



伊澤康一・津村真理・足立匡俊・宿谷昌則:緑地空間がつくり出す「冷たさ」に関する実測研究(その3.葉面のエクセルギー消費と光合成・蒸散の関係)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.631-632。

 本報その3.では、葉面におけるエクセルギー消費速さとグルコース生成速さ・蒸散速さの関係を、実測値に基づいた葉面のエクセルギー収支によって定量化した。エクセルギー収支式は、エネルギー収支とエントロピー収支・環境温度の組み合わせによって得られた。エネルギー収支は葉面温度について解くことになるが、光合成効率と葉面の飽和絶対湿度が葉面温度の関数であって、収支式が非線形となるため、反復計算を行なって葉面温度を求めた。得られた葉面温度は、林内温の実測値と誤差±1℃程度で合致した。このモデルにしたがって得られる葉面の蒸散速さは、グルコースとして固定される水の約100倍になることがわかった。また、グルコース生成速さが最大となるような日射量と風速の組み合わせが存在することがわかった。



姚?・廣谷純子・山田浩嗣・宿谷昌則:流水日除けと建物の断熱・蓄冷による採冷に関する実験(その1.実験の概要と結果)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.649-650。

 建物の断熱性能と蓄冷性能の相乗効果を活用した冷房(すなわち採冷)の試みとして、外付け日除けの表面に水を流すしくみを持った装置(流水日除け)を試作し、その効果を実験と測定結果に基づくエクセルギー解析によって明らかにした。本報その1.では、流水日除けの概要と実験の概要を述べた。実験は、2004年8月17〜20日につくば市にある熱性能の異なる二つの実験棟で行なった。流水日除けのはる開放窓面の放射温度は32〜34℃になるのに対し、(乾いた)外付け日除けのある窓ガラス面は32〜36℃、日除け自体の温度は36〜41℃になることを確認した。



廣谷純子・姚?・山田浩嗣・宿谷昌則:流水日除けと建物の断熱・蓄冷による採冷に関する実験(その2.エクセルギーによる考察)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.651-652。

 本報その2.では、まず流水日除け面におけるエクセルギー収支式を導き出し、また、流水日除けのある解放された室内空間と、日除けがなくエアコン装置による対流式冷房を行なう閉鎖された室内空間とを比較するために両室のエクセルギー収支式を導出した。実測値に基づいてエクセルギー収支式を具体的に求めたところ、流水日除けでは僅かながら冷エクセルギーが産み出され、この冷エクセルギーと、夜間換気・床蓄冷の組み合わせによって産み出される冷エクセルギーとによって採涼が実現されることがわかった。比較のためにエアコンによる冷房の場合のエクセルギー収支を求めたところ、大きな温エクセルギーを外気へ排出しつつ、採冷に比べて著しく大きな冷エクセルギーを室内空気に与えていることがわかった。



中村雅子・近藤靖史・宿谷昌則:飲食店の分煙・禁煙実態に関する研究(その1.飲食店に対するアンケート調査とその分析)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.773-774。

 本報その1.は、2003年月に施行された「健康増進法」によって実施されるようになった分煙・禁煙の実態を、特に神奈川県横浜市の民間飲食店舗を対象に調査した結果を述べたものである。調査は2003年7月に行なわれ、252店舗からデータを得た。全体の77%が80席未満の小規模店舗であり、残りが大規模店舗であった。大規模店舗では分煙・禁煙が進められやすい傾向が窺えたが、小規模店舗ではほとんど効果的な実施例がないことがわかった。



近藤靖史・小笠原岳・中村雅子・宿谷昌則:飲食店の分煙・禁煙実態に関する研究(その2.飲食店の換気実態調査とCFD解析による検討)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2005年9月、pp.773-774。

 本報その2.では、調査対象の1店舗について換気の実態とタバコ煙の拡散状況に着目して調査を行なった結果を述べ、数値流体解析により喫煙席の配置変更や換気設備の改善による分煙効果を検討した結果を述べた。対象店舗は床面積100uほどで、喫煙した場所から7mほど離れた位置でも数分後には粉塵濃度は許容値0.15 mg/?を容易に超えることがわかった。また、気流解析の結果から、喫煙席の専用給排気扇を設置するだけでも分煙の効果はかなり改善できることが分かった。



岩松俊哉・若月貴訓・小山洋平・宿谷昌則:小学生を対象とした夏季の住まい方調査と住環境教育ワークショップ、住宅総合研究所「住まい・まち学習」実践報告 論文集6、2005年9月、pp.85-90。

 東京都練馬区にある一小学校に通う小学生を対象にして夏の住まい方を調査するとともに、そのうちの一部の小学生を対象にした「涼しい家づくり」にかんするワークショップを行なった結果を報告した。ワークショッププログラム内容の効果については、脳の働きに着目して考察を行なった。また、ワークショップの5ヵ月後に住環境教育の効果がどの程度残っているかについても調査した結果を考察した。子供たちが実際に手を動かして体験したり、その体験したことを発表したりする機会をつくることの重要性が確認できた。



宿谷昌則:環境設計教育−身近な環境の情報を読む −環境情報フィールド演習の試み−、日本建築学会大会(近畿) 地球環境部門 パネルディスカッション(1)資料集、pp.34-37。

 身近な環境の成り立ちを体感しイメージできる能力を育成することは、環境技術の専門家を目指す人々に限らず、環境に多少なりとも関心のある一般の人々にとっても重要だろう。さらに、これまでのところ環境にはほとんど関心がなかった人々に新たな関心を引き出すのにも必要かもしれない。このような観点から「環境情報フィールド演習」と題する演習科目が、武蔵工業大学環境情報学部において筆者を含む6人の教員の協力によって、2004年春以来実践されている。演習は、街並み・水質・植物・光・熱・電力など6つのテーマを対象として、テーマ一つが2週4時限(360分)で完結するものである。本稿ではその概要を紹介するとともに筆者の担当するテーマの実践を通じて感じたことを述べた。



宿谷昌則:快適性へのアプローチ−涼しさ・温かさを感じる仕組み、季刊 チルチンびと34号、2005年秋、pp.32-37。

 暑さや寒さの質はどのようにして決まるか、建築空間に快適な温かさや涼しさを産み出すには建築外皮はどのようにしたらよいか、温かさや涼しさを引き出せる住まい方にはどのような工夫があり得るか、などについて、「チルチンびと」の編集者にインタビューを受け、熱の振る舞いの基本を理解するところから始まって、ヒトのからだの生理や心理・行動の特徴などを語り、自然のポテンシャルを活かす住居やその住まい方とは何をどうすることなのかを語った。そのインタビュー結果を談話としてまとめたものである。



宿谷昌則:熱の流れと循環のデザインを考える−エクセルギーで読み解く自然共生建築、日本建築家協会 環境行動委員会 編:「環境建築」読本、彰国社、2005年9月、pp.93-122。

 ヒトのからだのしくみを再考して、そこから快・不快とは何かを改めて問い直し、建築外皮の光や熱に対する性質や電気・機械設備としての照明や暖房・冷房のしくみを、エクセルギー概念を通して考えていくと、快適性といわゆる省エネルギー(省エクセルギー)とが両立する道筋が見えてくることを解説した。ヒトのからだを生物学的視点から見直すとともに、建築環境を熱力学的視点から考察し直すことの重要性を具体例を用いて示した。環境建築のデザインは、自然に備わる「流れ」・「循環」のしくみに倣う かたち・かた ができていくシナリオを描き、それを実行することだろう。この解説は、日本建築家協会で行なわれた「環境建築セミナー」での講演を読本として纏めなおしたものである。



宿谷昌則:環境教育/ライフスタイル、日本学術会議 建築学研究連絡委員会「設計科学としての建築・都市」所収、2005年9月、pp.184-185。

 自然のポテンシャルを活かす住まい方を創出していくためには、建築をつくる側(専門家)と建築をつかう側(住まい手)との協働が必要である。現状は、両者に乖離があって協働は十分には実現されていない。協働が少しでもよりよく実現していくには、住まい手が身近な環境の振る舞いを知る機会をつくっていくことが重要であって、そのためには建築(住)環境教育が鍵を握っている。学校教育の中、あるいは地域社会における市民教育の中で建築(住)環境教育を実践していくことが、自然のポテンシャルを活かす住まい方を住まい手が自ら発見し育んでいく。この時間発展のプロセスが都市環境や地域環境を結局のところ豊かにしていくことになると考えられる。





J. Hirotani, Y. Mi, M. Nishiuchi, K. Isawa, and M. Shukuya, An Experimental Study on a Radiant Cooling Panel Using the Evaporation of Water、The 2005 World Sustainable Building Conference Tokyo(SB05 Tokyo), 27-29 September 2005, pp.739-746.

 断熱性と遮熱性がよい建築環境空間に整合するような冷房システムの可能性を探る実験を行なった。対象としたのは、蒸発冷却を利用した放射冷却パネルによる採冷システムである。このシステムを35uほどの室に設置して、物理量の測定とともに被験者の感覚を測定した。これまでの常識的な考え方によれば、室内空気の冷却と除湿が冷房の目標とされてきたが、濡れた放射冷却パネル面からの冷放射エクセルギーは、湿度が65〜75%となるかなり湿気た環境空間をつくるのにもかかわらず、被験者の涼しさ感を与えるのに効果がかなりあることがわかった。



T. Iwamatsu, T. Wakatsuki, Y. Koyama, and M. Shukuya, Development of a Method for Built-Environmental Education under Japanese Summer Climate、The 2005 World Sustainable Building Conference Tokyo(SB05 Tokyo), 27-29 September 2005, pp.657-664.

 建築環境教育の方法開発の一例として、夏季に涼しい室内環境を身近にある自然のポテンシャルを活かしてつくり出す方法をとりあげ、小学生を対象としてワークショップを試行した結果を述べた。ワークショップは二日間にわたって行なわれるもので、初日は小学校の校地内外にある暑い場所と涼しい場所を発見すること、二日目は、4〜5人ずつのグループごとに校庭で段ボール紙などを使った家づくりを体験して、涼しさを得る方法を具体的・発見的に学ぶものである。このワークショップのビデオ撮影記録を分析して、どのようなプログラムが効果的かを、脳の働きの基本的な性質に注意しながらまとめた。



K. Isawa and M. Shukuya, A Combined Exergy Analysis on Human-Body System and Floor Heating System、The 2005 World Sustainable Building Conference Tokyo(SB05 Tokyo), 27-29 September 2005, pp.649-656.

 断熱性のよい外皮をもつ建築空間では、放射による加熱を中心とする暖房システムが良いとの前提に立って、特に床暖房システムを取り上げ、床の下側断熱材の厚さ、供給温水温度のレベル、埋設パイプ深さの三つのパラメータがどのような組み合わせの場合にエクセルギー消費を最小とするかを数値解析によって求めた。エクセルギー消費は、人体と床暖房システムの双方を対象にした。これらのエクセルギー消費がほぼ最小になるのは、横浜 冬季の条件では、断熱材厚さが100 mm以上、パイプ深さが20〜35 mm、供給温水温度が28℃程度であることがわかった。



D. Schmidt and M. Shukuya, Exergy: the Step Beyond the“Energy”Conscious Design-a New Look at Sustainable Building、The 2005 World Sustainable Building Conference Tokyo(SB05 Tokyo), 27-29 September 2005, pp.470-477.

 建築環境の暖冷房エネルギー負荷計算の方法は著しく発達してきたが、それを補完するエクセルギー計算の重要性について解説した。国際エネルギー機関(IEA)の国際共同研究プログラムの一つとして2000〜2004年に行なわれたエクセルギー計算ツールの開発結果と、典型的なシステムの解析例を示すとともに、エクセルギー概念によって明示される事柄を紹介した。また、以上の結果に基づいて、エクセルギーの観点から重要と考えられる3〜4の建物事例を紹介した。





M. Adachi, N. Watanabe and M. Shukuya, Research on Adjusting Behavior and Consciousness of Lighting Environment, The 2005 World Sustainable Building Conference Tokyo(SB05 Tokyo), 27-29 September 2005, pp.1499-1502.

 電灯光を主として形成された光環境に曝され続ける人は、窓から得られる昼光に対して感受性を鈍くさせている可能性がある。この研究では、電灯照明によく曝されている人と、そうではなく昼光照明によく曝されている人とではどのような違いがあるのか、あるいは違いはないのかを明らかにするための実験を行なった。その結果、昼光照明によく曝されている人は部屋に入って電灯照明のスイッチを入れる際に、光環境を確認する行動を無意識のうちに取ることがわかった。



宿谷昌則:自然共生建築の見方・考え方、ベース設計資料、2005年12月、pp.32-35。

 自然共生建築とは、太陽電池を屋根に備えたり、高効率の冷暖房機器を備えたりした建築ではない。本稿では、誰もが人生の80%を越える時間を過ごす建築環境とは何かをヒトの「からだ」を見直し読み直すことによって、またエネルギー問題というときの“エネルギー”とは何を意味するかを読み直すことによって、自然共生建築の、改めて見えてくる「すがた・かたち」、読めてくる「しくみ・しかけ」について解説した。



宿谷昌則:教育・建築環境の共創と再生、建設ジャーナル、2005年12月、p.23。

 教育問題の核心は何か。それは、「知識」をスポンジのごとく吸収して、それらを自らの「知恵」としていかせる力を育むプロセスを見ずに、覚えた(しばしば棒暗記の)知識の断片から成る山の高さだけを競い合わせ評価してしまう考え方にあるのではないか。このような筆者なりの考えを述べ、教育の再生が、建築環境の再生と共に改めて創っていけるのではないかとの期待を述べた。この期待とは、2004年度から始まった「学校のエコ改修と環境教育プログラム」事業のことである。

 

 

     
     
     
   

武蔵工業大学 環境情報学部 ・大学院環境情報学研究科 宿谷昌則研究室
 
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