2006年 研究論文

宿谷昌則:暖房文化とことば考−身近な環境技術を拓くために−、 Symbiotic Housing No.29, 2006年3月、pp.1-2。

日本の風土に相応しい暖房や冷房を明示的に表現するには、それなりの「ことば」が必要である。ことばの豊かさは文化の度合いを表わす。これは古今東西を問わない。「ことば」には切れないものを切る性質がある。例えば、「窓」ということがなかったところに「窓」ということばが新しくできたとすると、その途端に「窓」と「窓ではない部位」との区別が発生する。このような見方で、暖房ということばを切る試みを行なって、温もりをつくり出す基本となる「温房」、温房が実現した建築環境空間で行なう暖房を「採温」と呼ぶことなどを提案した。温房はパッシブ型の技術がつくり、採温はパッシブ型の技術に整合するアクティブ型の技術がつくることも指摘した。

 

宿谷昌則:エクセルギーの見方・考え方、電気学会誌、 2006年4月号、Vol.126 No.4、pp.196-197。

いわゆるエネルギー問題と環境問題を如何に捉え、これからの時代に相応しい技術を如何に開発していくかを考えるとき、エクセルギーの見方・考え方が鍵になるとの視点に立って、エクセルギー概念に馴染みのないと思われる読者むけに短い解説を行なうとともに、応用の一事例として蛍光灯のエクセルギー収支を紹介し、人工照明技術のあり方について提言を行なった。

 

宿谷昌則:自然共生建築の創出と学校環境、近代建築 No.60 特集「学校に新しい息吹を」、2006年8月号、pp.56-57。

 地球環境問題を背景として、建築のつくり方が改変を求められているが、単につくり方を変えるのではなく、建築に求められている役割を改めて見直す必要がある。特に学校建築は、子供たちが短くはない時間を過ごすことから考えて、学校環境を環境教育の題材として取り上げ得るように変容させたらよい。環境教育といえば、海や森などの自然を守るための教育を暗に指すことが多いが、一般的な環境教育と住環境教育とを有機的に繋ぎ、また、理科や数学・国語などの教育にも有機的に繋ぐことが必要である。体感から始まるイメージの創出、理解の深まりのプロセスを重視するために環境を題材とした教育を展開する。その可能性を指摘した。これは、自然のポテンシャルを活かす建築の住まい方の学びにも繋がっていることを指摘した。

 

D. Schmidt and M. Shukuya, Designing for Increased Comfort and Energy Efficiency in Buildings by Utilizing Low Exergy Systems、Proceedings of Healthy Buildings 2006(Lisboa, Portugal), 4-8 June 2006, pp.181-185.

エネルギー問題というときの“エネルギー”と、物理学上の概念である「エネルギー」は共通する面がある一方で、著しく異なる面がある。それは、一方は「消費」が問題になり、他方は「保存」が法則となっている点である。いわゆるエネルギー問題を背景として、暖房や冷房のあるべき姿を論じるためには「エクセルギー」の概念が必要であることを指摘するとともに、エクセルギー概念の応用として低エクセルギー利用の暖房・冷房システム開発の可能性を指摘した。国際エネルギー機関のもとに 2007〜2010年の間に国際共同研究プログラム(IEA/ECBCS Annex 49)として行なわれることになっている研究活動内容も併せて紹介した。

 

M. Shukuya, K. Tokunaga, M. Nishiuchi, T. Iwamatsu, and H. Yamada, Thermal Radiant Exergy in Naturally-Ventilated Room Space and Its Role on Thermal Comfort、Proceedings of Healthy Buildings 2006(Lisboa, Portugal), 4-8 June 2006, pp.257-262.

自然通風を行なっている室空間における温熱的快適性と放射エクセルギーとの関係性について論じた。空間の大きさが同一の二つの実験棟において、一方に高断熱性外壁と高い日射遮蔽性(外付け日除け)を持たせ、いま一方には従来的な中断熱性外壁と低い日射遮蔽性(室内側日除け)を持たせた場合について、被験者に温熱感・快適感にかんする申告してもらうと同時に、室内外の環境物理量を測定し、温熱感・快適感と環境物理量の関係を解析した。その結果、室内で通風による風が感じられないような場合には特に放射エクセルギーが快適感に大きな影響を及ぼし、周壁から得られる 20mW/uていどの「冷」放射エクセルギーが重要であることを示した。

 

足立匡俊・宿谷昌則:日の入り前後の光環境変化に応じた照明調整行動に関する実験研究、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.327-328。

昼間に主として昼光を利用している学生を対象として、室内外の明るさの変化が著しい時間帯に着目した被験者実験を行ない、これらの学生がいつどのようにして、また屋外と室内の明るさがどのような関係のときに照明を点灯するのかを調査した。また調査した結果と実験に参加した学生の明るさに対する意識や行動との対応関係について考察を行なった。実験は、常用されている研究室空間を用いて行なった。被験者になった学生の多くが、自ら照明器具のスイッチ操作を行なうようになってから間接照明に慣れたと答えた。このことから、手元で照明を点灯できるか否かは、光環境の形成において重要であることを確認した。

 

游明遠・生島充・石川雅規・宿谷昌則:外断熱集合住宅における自然を活かす夏季の住まい方に関する研究、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.47-48。

本研究では、先行する研究として行なわれた質問紙調査で 夜間換気を行なう住戸が少なからずあることが確認できたことを受けて、夜間換気を行なうことでどのような熱環境が外断熱集合住宅内で実現されるかを実測し、その結果をエクセルギー概念によって解析した結果を述べた。自然換気を行なっていると思われる住戸と、エアコンで冷房を行なっていると思われる住戸を取り上げ、両者の室内環境を比較した。その結果、両住戸ともに、周壁平均温度のほうが室内空気温度よりもわずかに低めであった。これは、前者では夜間換気による躯体の蓄冷、後者ではエアコンによる躯体の蓄冷によると考えられた。両住戸の室内環境には大きな違いが見られなかったことから、日射遮蔽・夜間換気・躯体蓄冷の組み合わせによる「涼房」と「採冷・採涼」は十分に可能であることを確認した。

 

廣谷純子・善養寺幸子・宿谷昌則:小学校における系統的な住環境教育の試行とその調査、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.579-580。

環境教育推進のための法律が制定( 2003年)されたり、京都議定書が発効(2005年)されたりする社会状況の中で、自然を活かした住まいやその暮らし方についての学習が初等・中等教育などの場で重要視され始めている。本報告は、環境省の「学校エコ改修環境教育事業」の一環として行なわれた 江戸川区 上一色 南小学校で試みられた小学 1年生から6年生までを対象とした一貫性あるプログラムの開発とその試行結果について述べたものである。プログラムは、低学年では「自然と遊ぼう」、中学年では「樹木」「水」、高学年では「エネルギー」「住まい」をテーマとしている。試行の結果、住環境教育は、学校の先生が主体となって活き活きと取り組めたときに初めて子どもたちへの教育効果が上がること、それを可能にするには、コーディネータとしての専門家が後方から継続的に支援が行なえる場合であることが確認できた。

 

宿谷昌則:建築環境を題材とした学習プロセスの省察、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.581-582。

筆者は建築環境をめぐる教育方法の臨床実験を繰り返してきたが、その中で体験を通じて発見できたことを改めて整理した。学習プロセスは、体感に始まり脳の中に湧いたイメージが粗から精へと理解の度合いが増していくことで成り立っており、このプロセスでは、視覚情報と聴覚情報の連合が重要な役割を果たしていることを指摘した。このことは「かたち」と「かた」の連合という形式で、(学問の)様々な場面で現われる。また、生命の個体発生と系統発生の関係性のなかに、学習プロセス(知)の個体発生と系統発生の関係性を位置づけてみると、学問の系統的な発達と、一個人のなかで理解がどのように発達するかについて対応関係が見られることを、熱に関する学問の発達と学習を事例として指摘した。

 

明石幸一郎・宮崎賢一・片岡えり・星野佳子・岩松俊哉・西内正人・宿谷昌則:開放空間における採冷手法の可能性に関する実験研究(その1.実験概要)、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.619-620。

本報その1.では、冷放射による採冷方法を施した室内環境の物理量を把握するとともに被験者申告や履歴との対応関係を明らかにするための実験の概要を述べた。実験は、 2005年の夏に つくば市 にある二つの実験棟を用いて、一方に対流式エアコン、他方に天井面を冷却する放射冷房(ラジコン)を施して行なった。エアコンと扇風機の組み合わせに対して、ラジコンのほうは窓を閉鎖・開放のいずれかとの組み合わせとした。被験者は、エアコン棟とラジコン棟にそれぞれ 1時間ずつ滞在してもらった。快適さについての申告は、風を感じると思うか否かとの組み合わせで答えてもらうこととし、データロガーに接続したダイヤルで行なってもらった。

 

宮崎賢一・明石幸一郎・片岡えり・星野佳子・岩松俊哉・西内正人・宿谷昌則:開放空間における採冷手法の可能性に関する実験研究(その2.実験結果)、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.621-622。

本報その2.では、実験期間中の環境物理量を整理した結果を述べた。エアコン棟の窓面には室内側日除け(カーテン)、ラジコン棟の窓面には室外側日除けを設けた結果、後者は前者に比べて日射取得量が約 1/3になった。エアコン棟は室内空気温の方が周壁平均温度(MRT)よりわずかに低め、ラジコン棟はその逆の傾向であった。室内湿度は、エアコン棟のほうが60〜80%、ラジコン棟のほうが50〜90%にあって、後者のほうが高めであることが多かった。室内の上下方向の空気温度分布は、エアコン棟とラジコン棟ではまったく異なり、前者は天井・床面より低め、後者ではその逆に天井・床面より高めとなった。快適申告は、エアコン棟で約50%、ラジコン棟(通風あり)で約75%であった。

 

片岡えり・明石幸一郎・宮崎賢一・星野佳子・岩松俊哉・西内正人・宿谷昌則:開放空間における採冷手法の可能性に関する実験研究(その3.エアコンの好き嫌いと夏季の温熱快適感)、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.623-624。

 本報その3.では、この実験に参加してもらった被験者の属性としてエアコンの好き・嫌いを取り上げ、それらと実験棟在室時の環境物理量・快適さ申告の関係を整理した結果を述べた。快適申告割合は、周壁平均温度( MRT)が高くなるにつれて、また相対湿度が高くなるにつれて低くなる傾向があった。同様の関係を室内空気温度について調べたが、関係はあまりハッキリしなかった。また、MRTと快適申告割合の関係は、エアコンの好き・嫌いで顕著な違いが見られた。エアコン好きの被験者は、低めのMRT・相対湿度でないと快適さが得られにくいことがわかった。

 

星野佳子・明石幸一郎・宮崎賢一・片岡えり・岩松俊哉・西内正人・宿谷昌則:開放空間における採冷手法の可能性に関する実験研究(その4.室内空間を出入りするエクセルギー)、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.625-626。

本報その4.では、環境物理量の測定結果にもとづいて、エアコン棟・ラジコン棟それぞれの周壁面から出る放射エクセルギーの経時変化や、放射・対流エクセルギーの出入りの様子を計算した結果を示した。エアコン棟から出る「冷」放射エクセルギーは、ラジコン棟に比べてかなり小さいこと、ラジコン棟では「温」放射エクセルギーが出ることはないことがわかった。窓面から室内空間に向けて出る放射エクセルギーはエアコン棟では「温」であるのに対して、ラジコン棟では「冷」であることがわかった。これは、ラジコン棟における窓ガラス外側の日除けの効果である。

 

岩松俊哉・星野佳子・明石幸一郎・宮崎賢一・片岡えり・西内正人・宿谷昌則:開放空間における採冷手法の可能性に関する実験研究(その5.人体エクセルギー収支と快適感)、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.627-628。

本報その5.では、ラジコン棟・エアコン棟における環境物理量にもとづいて、人体のエクセルギー収支を求めた結果を述べた。ラジコン棟でもエアコン棟でも人体エクセルギー消費速さは 2W/u前後であった。エアコン棟では、室内の相対湿度が下がると、人体エクセルギー消費速さが著しく大きくなる傾向があった。人体を出入りするエクセルギーのオーダーは0〜200mW/uであり、快適さはエクセルギー消費速さだけでなく、人体を対流・放射で出入りするエクセルギーのパターンによって決まると考えられる。

 

藤井廣男・井澤健輔・姚?・宿谷昌則:ツル性植物で作られた外付け日除けによる採涼効果に関する研究(その1.研究の背景と実測の概要)、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.649-650。

緑のカーテンを施した小学校校舎において、緑のカーテンに関係する環境物理量の測定、緑のカーテンが設置された教室と通常の室内側カーテンが設置された教室の室内環境の測定を行なった。測定は 2005年8月初旬に行なった。緑のカーテンの表面温度は、ガラス窓とコンクリート表面温度に比べて5℃程度低いことがわかった。また、室内側から窓面全体の放射温度を測定したところ、冷房を行なっている状態の白色カーテンをもつ教室の窓面温度が33℃であったのに対して、窓ガラスを開放して通風を行なっている緑のカーテンを持つ教室では窓面表温度が31℃であった。

 

井澤健輔・藤井廣男・姚?・宿谷昌則:ツル性植物で作られた外付け日除けによる採涼効果に関する研究(その2.教室内の温熱環境の比較と緑のカーテンの熱特性)、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.651-652。

緑のカーテンがある教室内の温熱環境がどのような状態であるか、また、緑のカーテンの温度がどのような仕組みで決まっているかを考察した結果、次のことを明らかにした。緑のカーテンは、室内作用温度を、通常の室内側カーテンがある場合に比べて 0.5〜1.5℃下げる。緑のカーテン近傍の混合比(絶対湿度)は外気より2g/kgほど高く、それが緑近傍の空気温度を外気より1℃程度低くしている。葉からの蒸発速さは相当外気温が高くなると大きくなる傾向があるが、40℃を超えるとほぼ頭打ちになる。蒸発速さの最大値はおよそ0.06g/(us)であった。また、葉からの水の蒸発がないとすると、葉面の温度は2〜4℃高めとなることなどがわかった。

 

姚?・藤井廣男・井澤健輔・宿谷昌則:ツル性植物で作られた外付け日除けによる採涼効果に関する研究(その3.エクセルギーによる考察と雨水利用の可能性)、日本建築学会大会学術講演梗概集、 2006年9月、pp.653-654。

本報その1.とその2.に述べた測定結果・考察結果を踏まえて、緑のカーテンにおけるエクセルギー収支の考察を行なうとともに、緑のカーテンへの灌水のための雨水利用可能性について検討を行なった。緑のカーテンに入る液体水のもつ湿エクセルギーは吸収される日射エクセルギーに次いで大きく、水の湿エクセルギーが積極的に消費されることで、緑のカーテンからはわずかな冷エクセルギーが放出されるようになっていることがわかった。また、葉の蒸散で緑近傍空気の湿エクセルギーは大きくなるが、その一方で冷エクセルギーを保有するようにもなることがわかった。緑のカーテンへの灌水量の実測値と 8月の降水量の比較を行ない、雨水は十分利用可能であることもわかった。

 

M. Shukuya, Comfortable High-Performance and Low-Exergy Built Environment、Proceedings of the 4 th European Conference on Energy Performance & Indoor Climate in Buildings(EPIC)(Lyon, France), 20-22 November 2006, pp.257-262.

この論文では、エクセルギー概念を解説するとともに、その建築環境システムの記述への応用について概説を行なった。建築環境システム(系)に限らず、様々な系はエクセルギー・エントロピー過程によって成り立っていること、熱エクセルギーには温・冷エクセルギーがあること、人体についてエクセルギー収支が計算可能であり、冬には人体エクセルギー消費が最小となるような周壁温度と空気温の組み合わせがあること、夏には冷放射エクセルギーが特に通風空間で重要になることなどを述べた。以上のような知見を総合して、低エクセルギー利用の建築環境システムを構築していくことが重要である

 

 

     
     
     
   

武蔵工業大学 環境情報学部 ・大学院環境情報学研究科 宿谷昌則研究室
 
Copyright ©2003 Shukuya lab. Musashi Institute of Technology, All rights reserved.