1999年 研究論文

宿谷昌則:「流れ」と「循環」のデザイン、SD 9901、1999、p.69。

私たち人間を含む生きものの身体にみられるエネルギーや物質の「流れ」という機能、身体の内部にみられる「循環」という機能、生態系にみられる「流れ」と「循環」が40億年の歴史の中で創り出されてきたことを踏まえて、建築環境にほどよい明るさをもたらす光の「流れ」のデザインや、ほどよい温かさや涼しさをもたらす熱の「流れ」のデザインのあり方を述べた。また、緑化屋根が「循環」の経路をデザインすることになるのだということを解説した。

 

宿谷昌則:自然にある「流れ」と「循環」の見方・真似方、建築とまちづくり、No.263、1999、pp.14-17。

自然の枠組みの中にある「流れ」や「循環」をどう見るか、そしてそれらの真似を、建築環境デザインとしてどう行なっていけば資源の枯渇や捨て場の枯渇といった問題の解決に貢献し得るのかを述べた。流れの見方としてエクセルギーとエントロピーの考え方を解説し、入れ子構造になっている様々の大きさのシステムに見られる循環について解説した。これまで「閉じる技術」が開発されてきたが、これからは「開ける技術」が必要なことを指摘した。

 

森花朋宏・高橋達・宿谷昌則:鉄筋コンクリート壁体の生産と運用におけるエクセルギー消費、日本建築学会計画系論文集、No.520、1999年6月、pp.99-105。

コンクリート壁体の鉄筋の生産において、投入エクセルギーの83%が消費され、残り(17%)が鉄筋内部に蓄積されること、コンクリート部分の生産では、投入エクセルギーの80%が消費され、残り(20%)がコンクリート内部に蓄積されることを示した。また、建物使用時には、鉄筋に蓄えられたエクセルギー17のうち2が、コンクリート部分に蓄えられたエクセルギー20のうち5が消費されることを示した。さらに、エクセルギー消費の大小は、壁体外表面仕上げの仕様によって著しく異なることを示した。

 

宿谷昌則:気象情報と建築環境の調整、空気調和・衛生工学、Vol.73 No.7、1999年7月号、pp.27-32。

建築環境の調整にあたって、気象情報のなかにポテンシャルをどう見いだすかを述べた。まず、人と環境・情報の基本的な対応関係を整理して、知覚情報と建築環境の関係性を解説した。次いで、小事務室における昼光照度と自然室温の計算事例を引き、壁や窓にそれなりの備えを設けることによって、気象情報にポテンシャルが見いだせるようになること、また、1時間ごとに与えられる気象情報から見いだせない照度や風速の変動の中に建築環境の調整に利用可能な側面があることを指摘した。

 

宿谷昌則:省エネルギーと自然エネルギー利用の考え方・進め方、BELCA NEWS 61号、1999年7月、pp.55-60。

省エネルギーとともに自然エネルギー利用とは何をどうすることなのかについて、筆者の考えを述べ、次いで、武蔵工業大学の横浜キャンパスに施されている省エネルギー手法と自然エネルギー利用システムの概要を示した。また、省エネルギーや自然エネルギーの利用が実質的な効果を発揮するためには住まい手のかかわり方が鍵となることを述べた。

 

H. Asada and M. Shukuya, Numerical Analysis of Annual Exergy Consumption for Daylighting, Electric-Lighting, and Space Heating/Cooling System, Sixth International IBPSA Conference(BS'99), Kyoto Japan, September, 1999, pp.121-127.

昼光照明・電灯照明・冷暖房システムによる年間エクセルギー消費のシミュレーションを行なった。外気温が変動する一年間を通してエクセルギー消費をどう計算するかをまず述べ、エクセルギー消費のパターンが日除けの位置、地域性によってどのように異なるかを具体的に示した。

 

R. Nishikawa and M. Shukuya, Numerical Analysis on the Production of Cool Exergy by Making Use of Heat Capacity of Building Envelopes, Sixth International IBPSA Conference(BS'99), Kyoto Japan, September, 1999, pp.129-135.

建築外皮に蓄積される「温エクセルギー」と「冷エクセルギー」の計算方法について述べるとともに、応用事例として、建物熱容量を利用した自然冷房効果についてのケーススタディについて述べた。適切な日射遮へいと自然換気・熱容量の組み合わせによって、夏季の日中にも室内に冷エクセルギーが取り出しえることを具体的に示した。

 

宿谷昌則:自然共生建築とその環境にかんする一考察、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.439-440。

人(ヒト)の身体の内側にある自然のポテンシャルについて理解を深めると、身体の外側にあるポテンシャルと内側にあるポテンシャルとをどう調和させたらよいかについて知見が得られ、自然共生建築にふさわしい快適な環境とは何かが見いだされるだろうことから、生物の一種としてのヒトの身体に記憶されている情報(歴史性)と環境との関係性を整理した。環境を、細胞レベルの環境、建築環境、さらに地球環境に分類し、それぞれに遺伝情報・知覚情報・言語情報を対応させた。

 

斉藤雅也・宿谷昌則:「涼しさ」を感じる気流に関する屋外での実測とその解析、日本建築学会計画系論文集、No.523、1999年9月、pp.39-44。

今から70年ほど前に寺田寅彦が指摘した「涼しさ」が得られるような気流のパターンについて、夏季の屋外環境での被験者実測と解析を行なった結果を述べた。その結果、気流速度が大きければ大きいほど「涼しさ」が得られるわけではないこと、「涼しさ」が連続的に得られる場合の気流速度は、「涼しさ」が得られない場合の気流速度に比べて振幅が2倍以上大きく、波形の特徴は、急激な上昇に引き続くゆっくりとした下降であることが明らかになった。

       

斉藤雅也・宿谷昌則:熱環境の変化と人体のエクセルギー消費速度に関する考察、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.469-470。

夏季において屋外から室内に入る場合に、すなわち、人体周囲の空気温度はが入室直後に低下する場合について、人体内部でのエクセルギー消費速度の経時変化の試算を行ない、その結果と温冷感との対応関係について検討した結果を述べた。「涼しさ」が得られるのは、体内シェル温度が小さな幅で変動するような動的平衡の状態であることがわかった。

 

荒嶽慎・西川竜二・宿谷昌則・岩村和夫:自然共生建築とその環境にかんする一考察、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.443-444。

世田谷区深沢に建つ環境共生住宅の隣棟間に設けられている透水性舗装道路が、植栽や水面土壌面と併せて隣棟間の微気候を改善するのにどの程度寄与するかを明らかにするために行なった空気温度分布と蒸発冷却効果についての実測結果を述べた。透水性舗装の持つ蒸発冷却効果には持続性はないが、隣棟間の計画でうまく日影をつくったり、また住まい手が打ち水を行なうなどの工夫次第で、蒸発冷却効果が引きだし得ることがわかった。

 

西川竜二・荒嶽慎・宿谷昌則・岩村和夫:自然共生建築とその環境にかんする一考察、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.445-446。

世田谷区の深沢にある環境共生住宅を対象にして、その室内と隣棟間、さらに敷地周辺の街路空間での夏季の温度分布を実測し、その結果から、都市における集合住宅としての自然冷房効果を検討した。室内と隣棟間の熱環境が総合的に計画されれば、隣棟間に良好な熱環境が形成され、室内の自然冷房効果が高まることを示した。

 

伊澤康一・斉藤雅也・宿谷昌則・岩村和夫:深沢環境共生住宅の涼房手法の効果に関する実測、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.441-442。

世田谷区の深沢にある環境共生住宅において、日射遮へいと通風がどのように働いて、在室者に「涼しさ」をもたらしているのかを定量的に明らかにするための実測を行なった。バルコニーの前面に入射する日射の65%がパーゴラと植栽で遮へいされていること、通風による換気回数は風速の小さいときでも10回/h程度は得られていることがわかった。

 

田辺俊彦・小名秋人・宿谷昌則:設定照度の低下が視的快適性と照明・冷暖房用電力に与える影響(その1.室内の明るさ感に関する実験結果)、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.405-406。

廊下における暴露照度が室内の明るさ感に与える影響と、室内の照明方法の違いが視的快適性に与える影響を明らかにするために被験者実験を行なった。電灯照明が消灯されている室に暴露照度が低い廊下から入室すると、入室直後に電灯照明の点灯の必要性を感じさせないことが可能になることを確認した。

 

小名秋人・田辺俊彦・宿谷昌則:設定照度の低下が視的快適性と照明・冷暖房用電力に与える影響(その2.必要机上面照度の推定と電力消費量の算定)、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.407-408。

廊下における暴露照度が室内の明るさ感に与える影響と、室内の照明方法の違いが視的快適性に与える影響を明らかにするために被験者実験を行なった結果に基づいて照明用・冷暖房用の電力消費量を推定した。設定照度を低くできるようにして、昼光照明を行ない、通風、着衣の調整、扇風機の併用を積極的に行なった場合、設定机上面照度を現状のままにして電灯照明を空調に依存した場合に比べて年間電力消費量が約64%削減し得ることがわかった。

 

高橋達・宿谷昌則:雨水を利用した屋根散水が建物内外の温熱環境に与える影響に関する実測と解析、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.589-592。

屋根散水と自然換気を導入した体育館について行なった実測結果と、実測値に基づいて行なったエクセルギー解析の結果を述べた。屋根散水によって、屋根外表面温度が40〜50℃から30〜40℃に低下すること、散水時は、屋根で雨水の湿エクセルギーが消費されることにより、屋根から放出される温エクセルギーが非散水時の1/10程度になることがわかった。

 

佐山竜一・高橋達・宿谷昌則:雑木林内外の温熱環境に関する実測、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.593-596。

武蔵工業大学の横浜キャンパスの南側に位置する雑木林を対象にして、雑木林内部の温熱環境形成に果たす水循環の役割を明らかにすることを目的として行なった実測結果を述べた。林と屋上とでは、絶対湿度で 0.5~3.0 g/kg の差があることがわかり、林内部では夜間に結露が生じており小規模な水循環が存在していることが確認された。

 

湯沢映子・高橋達・宿谷昌則:武蔵工業大学横浜キャンパスにおける電力使用量の推定方法の開発、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.435-436。

1997年4月に開学した武蔵工業大学横浜キャンパスに施された省エネルギー・パッシブ建築手法の効果を具体的に明らかにしていくための一つのステップとして、キャンパスの建物ごと・用途ごとの電力使用量パターンを推定する方法を開発した。

 

蟻川洋祐・杉岡弘明・松岡弘幸・高橋達・斉藤雅也・宿谷昌則:暑さへの対処方法が個人の温冷感覚と行動に与える影響に関する研究(その1.実験方法の概要と通風・冷房の影響)、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.455-456。

通風、クーラーの使用、薄着になること、より涼しい入室経路を選ぶことといった暑さへの対処方法が、個人の温冷感覚に与える影響について被験者実験を行ない、温冷感覚と行動の関係をビデオ撮影により記録し観察した。冷房室では、温冷感覚の個人差と経時変化が小さくなっていたのに対して、通風室では、温冷感覚の個人差と経時変化が大きく、涼しさを得るために様々な行動をとっていたことがわかった。

       

杉岡弘明・蟻川洋祐・松岡弘幸・高橋達・斉藤雅也・宿谷昌則:暑さへの対処方法が個人の温冷感覚と行動に与える影響に関する研究(その1.実験方法の概要と通風・冷房の影響)、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.457-458。

報告その1.に引き続いて、より涼しい入室経路を選ぶこと、薄着になるといった暑さへの対処方法が、個人の温冷感覚に与える影響を被験者実験の結果から述べた。涼しい屋外環境を経て入室すると、入室直後の設定温度を過度に低くしなくても、十分に涼しさを得ることができること、ネクタイの有無で体感温度が2℃程度異なり得ることを確認した。

 

松岡弘幸・高橋達・宿谷昌則:暑さへの対処方法が個人の温冷感覚と行動に与える影響に関する研究(その3.温冷感覚と生活習慣・意識の関係)、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.459-460。

前報1)2)に引き続いて、追跡調査として行なった被験者個人の生活習慣や意識に関する聞き取り調査の結果と、被験者の実験における申告の関係を考察した。その結果、快適と想像する温度が低い低い被験者は、クーラーを使う場合、その設定温度も低くなっていること、また、快適と想像する温度と、自分が実際に「涼しい」と体感する温度に差が見られた。

 

浅田秀男・宿谷昌則:ライトシェルフおよび傾斜天井による昼光の導入・制御効果の実測、日本建築学会大会学術講演梗概集、1999年9月、pp.509-510。

横浜市都筑区に建てられた事務所建築に施されたライトシェルフ(中庇)を用いた昼光照明システムの昼光導入効果を明らかにするための実測結果を述べた。ライトシェルフと傾斜天井の組み合わせは、夏季には直射日光を遮へいしつつ間接光を室内に導入できていることが確認できた。冬季は、ライトシェルフ上部の窓にブラインドを設けるなどの工夫があるとよいことがわかった。

 

宿谷昌則:環境共生、熱供給、1999年秋号、pp.37-38。

いわゆる環境問題を議論する場合のキーワードとしての「環境共生」とは何かについて解説を行なった。動物や植物が必ず入れて出すという機能を果たしながら生きていること、それは資源を取り入れつつ廃熱や廃物を排出すること、資源はエクセルギーという概念が、廃熱や廃物はエントロピーという概念が表わしてくれること、これらの概念による記述が「流れ」と「循環」の大切さに気づかせてくれること、環境デザインは「流れ」と「循環」であることを述べた。

 

伊澤康一・斉藤雅也・宿谷昌則・岩村和夫:深沢環境共生住宅における躯体蓄冷による涼房効果のエクセルギー解析、太陽/風力エネルギー講演論文集、1999年11月、pp.377-380。

日射しゃへいや通風と、壁体の蓄熱容量を組み合わせて、涼房効果が得られるよう工夫されている集合住宅を対象にして、夏季における室内温熱環境の実測を行なった。また、実測結果を踏まえて、日射しゃへいと窓の開放が、壁体からの冷エクセルギーの取り出し可能性にどのような影響があるかを数値解析によって明らかにした。冷エクセルギーを得るには、日射しゃへいと夜間通風の組み合わせが不可欠であることが明らかになった。

 

宿谷昌則:地球環境と住宅―開放系の技術に向けて、新建築住宅特集、1999年12月号、pp.20-25。

地球環境問題を背景として、住宅をはじめとする建築環境をどう位置づけるかを論じた。ヒトの身体に刻み込まれている生命の歴史から説き起こし、細胞環境・建築環境・社会環境の関係、さらにこれらの環境のそれぞれに対応する遺伝情報・知覚情報・言語情報の関係を解説した。このことによって、知覚情報(五感)を十分に働かせることの大切さを明らかにするとともに、建築環境が果たすべき役割を浮き彫りにした。 

 

     
     
     
   

武蔵工業大学 環境情報学部 ・大学院環境情報学研究科 宿谷昌則研究室
 
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