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これから、平成20年度卒業論文発表を始めます。タイトルは、「NEPAと環境影響評価法における環境アセスメント制度の日米比較、アセスメントプロセスと関連法・関係者の役割に着目して」です。発表者の井出あいみです。よろしくお願いします。
背景と目的です。
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まず、環境アセスメント制度が世界で初めて法制度として制度化されたのは、1969年、アメリカのNational Environmental Policy Actでした。
一方、日本の場合、公共事業におけるアセス制度の導入や、行政指導による制度化が行われるなど、国としてアセスメント制度を推進する動きはありましたが、法律として制定されたのは、1997年の環境影響評価法においてでした。
両者の法律によるアセスメント制度の現状は、
アメリカの場合、政策や計画も含む連邦政府の行為の全てが適用対象となっていたり、市民参加において、百万件を超える意見提出が行われる場合があり、開発事業における意思決定手続きの先進的な制度となっています。
一方日本の場合は、規模の細分化によるアセス逃れが起きていたり、開発の免罪符、環境アワセメントなどと揶揄されているように、行為の免罪符として、形式的に行われ、事業実施の言い訳としての環境調査技術となっているのが現状です。
これらの背景をふまえ、本研究では、
アセスメントの実施の有無を判断するスクリーニング体系、
市民が意見を提出することができる市民参加の機会、
関係者に焦点をあてたアセスメントの推進体制、の3点に焦点を絞って、日本のアセスメント制度の詳細を比較することで、日本の制度の問題点を提示することを目的とします。
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研究結果に移ります。
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まず、スクリーニング体系についてです。
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その前に、こちらがアメリカと日本におけるアセスメント手続きのおおまかなフローになりますが、今回は時間の関係上割愛させていただきます。
こちらのフローの中の、
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黄色い枠で囲われているプロセスが、アセスメントの実施か否かを判断するスクリーニング体系になります。
まず、アメリカの場合は、
(クリック 動作1)
連邦政府が資金の供与・援助、実施、規制、許認可を行う事業と計画については、アセスメントを行うことが前提となっており、民間事業であっても、連邦政府のこれらを行為に関わる場合は、NEPAによるアセスメントの実施義務が課されます。
これらの連邦政府の行為のなかから、事務的な活動であったり、何度アセスメントを行っても影響が少なかったある特定の事業だけがアセスメントの除外リストとして挙げられ、アセスメントの実施義務はなくなります。
除外リストの対象でない場合は、本格的なアセスメントに入る前段階の簡易的な環境アセスメントとして、「EA」が行われ、そのEAによって明らかになった環境への影響を反映して、EISと呼ばれる環境影響評価書の作成が必要がどうかを判断します。
EISの作成が必要ないと判断された場合は、重大な影響が無い旨の所見「FONSI」が作成され、アセスメントの実施義務がなくなります。
EISの作成が必要あると判断された場合は、これ以降の本格的なアセス手続きに進むことになります。
(クリック 動作2)
これは、EAを行うことによって、影響の大きさでスクリーニングが行われていることがわかります。
一方、日本の場合は、アセスメントを行なう事業を、道路事業や河川事業など、計12種の事業種のみに限定しており、アセスメントを行う条件は環境影響評価法施行令で指定された一定の規模を満たしている特定の事業だけがアセスメントを行うこととなっており、国が補助金の交付・実施・許認可などを行なう事業であることを条件としており、なおかつ、施行令によって規定された第一種事業と第二種事業と呼ばれる一定の規模以上の事業を、アセスメント対象としています。
それ以下の規模の事業である場合には、影響がいくら大きいと予想されるような事業であっても、法によるアセスメントの実施義務はなくなります。
また、こちらの(レザーポインタ)一定の規模とされている、第一種事業と第二種事業の規模も大きさによって分別され、第二種事業においては、事業の主務大臣が環境影響を判定し、影響の程度が著しいものだけがアセスメントの実施義務を負い、そうでなかったものは法によるアセスメントの実施義務はなくなります。
(クリック 動作3)
これは、影響の大きさではなく、単純に規模の大きさによってスクリーニングが行われていることがわかります。
(クリック 動作4)
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次に、市民参加の機会についてです。
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NEPAにおける市民参加の機会は、
先ほど説明いたしました、EAの段階、FONSIの段階、EISの対象範囲や詳細に分析すべき重大な課題の決定を行うスコーピングの段階、日本の準備書に相当するドラフEIS作成後の告示段階、日本の評価書に相当するファイナルEISの告示段階、の5段階において市民が参加できる機会が手続き上に規定されています。
一方、アセス法における市民参加機会は、
方法書の作成のスコーピングの段階と、準備書が作成された後の段階で規定されています。
単純に、日本における市民参加の機会が少ないことがわかりますが、
アメリカは、本格的なアセスメントに入る前段階から市民参加が規定されていたり、日本においては評価書作成後に市民の参加の機会がない点が、特徴としてあげられます。
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次に、実際にこれらのプロセスを推進していく体制はどのようになっているのかを比較しました。
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まず、アメリカの場合、事業の許認可権者となり、意見聴取義務と、評価書の総括的な責任を持っているのは、Lead Agencyと呼ばれる事業の主導となる連邦政府機関の官庁です。
(クリック 動作1)
また、評価書の作成や、環境影響の調査や予測は、事業提案者・開発側の官庁・環境保全側の官庁・コンサルタント会社を含む「EIS-team」と呼ばれるチーム体制によって行われますが、このチームは、Lead Agencyが構成を行うことになっています。
(クリック 動作2)
これはLead Agencyが主導となって、チームを構成して推進していく体制であることがわかります。
一方、日本において、Lead Agencyと行政上の位置づけが対比される主務省庁の大臣が行う役割は、許認可権者となるだけであり、
(クリック 動作3)
意見聴取義務や、評価書等の総括的な責任を持っているのは事業提案者自身となっています。
また、事業提案者は評価書等の作成をコンサルタントに委託し、(クリック 動作4)
コンサルタント会社が環境影響調査・予測についてはさらに調査会社に委託する(クリック 動作5)といった推進体制になっています。
(クリック 動作5)
これは、事業提案者主導で、個別に契約されて推進していく体制であることがわかります。
結論と考察です。
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スクリーニング体系についてですが、アセス法におけるアセスメントの実施は限られた事業種のみで、限られた事業種の中でも、環境への影響の程度ではなく規模の大きさによって判断されていることが明らかになりました。
考察としては、こちらの対象事業種の判定と事業規模の判定の手続きにおいて、事業種を特定する必要はないのではないか、規模の大きさだけではなく、環境への影響度合いを対象の判断材料とすべきあり、簡易的なアセスメント等を行うことで、環境への影響を事前に把握し、判断すべきであると考えました。
市民参加の機会については、積極性に欠けており、スクリーニング段階、評価書作成後の段階にも、意見を提出する機会がないことが明らかになりました。
考察として、事業提案者によるアセス逃れを避けるために、スクリーニングプロセスをオープンにすべきであると考え、本格的なアセスメントに入る前段階における市民参加の機会を導入を提案しました。
また、評価書の作成後に公告・縦覧・意見提出機会を導入することで、事業提案者の都合に合わせた評価書になっていないか、準備書段階で提示された市民からの意見が反映されたかどうかを確認することができるようになります。
また、市民参加がより積極的に行われるようになるためには、これらのように機会を増やすだけではなく、市民にとってもわかりやすい簡潔な評価書の作成や、市民への情報提供を徹底して行う必要があるのではないか、と考えました。
アセスメントの推進体制については、
事業提案者が中心となって委託契約を含む評価書作成プロセスが進められていくために、事業提案者の都合に合わせたアセスメントが行われているのではないか、ということが明らかになりました。
考察として、アメリカにおいても開発の立場にある連邦開拓局から25名の専門家がチームに参加するだけではなく、保全の立場からも10名の専門家がチームに参加している、といった例があるように、開発を行いたい「事業提案者」による委託契約だけではなく、保全側の機関もチームとなってプロセス自体に参加すべきではないか、と考えました。
また、アメリカの場合は、アセスメントを規定するNEPAは、すべての法律の共通する決まりである総則の位置づけにあり、アセスメントの強制力が非常に強いことにも、以上に挙げた問題点は起因しているのではないか、ということも考えられました。
法的な位置づけに関して、NEPAは、環境法のすべての法律に共通するきまりである総則として位置付けられているため、他の連邦法に関してもアセスメントの実施が規定されているが、アセス法は環境基本法の傘下に置かれた環境法の一つとしての位置づけにあり、他の個別法においてもアセスメントを実施する規定はない。
また、関係官庁の行政組織の位置づけに関しては、行政組織が違うため、単純に位置づけを比較することは難しいが、アメリカの行政組織は、複数の省庁よりも一つ上の立場からNEPAの手続きを見直すことができるCEQが存在するのに対して、日本の行政組織は、省庁と同じ立場にある環境省がアセス法における規制等を行っています。
これらのことより、アセスメント制度における数々の問題点は、法的位置づけや行政組織強制力が弱いことにも、起因しているのではないかということが考えられました
こちらが、引用文献になります。
最後に、インタビューに応じてくださったCEQHorst Graczmiel氏、株式会社日本設計の柴田悠様、その他ご協力いただいたすべての方に
この場を持って感謝の意を表します。ありがとうございました。
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最後に、アセスメント制度における数々の問題点は、法的位置づけや行政組織強制力が弱いことにも、起因しているのではないかと考えました。
法的位置づけについては、NEPAはすべての法律に共通するきまりである総則として位置付けられ、他の各論においてもアセスメントが規定されています。日本の場合は、環境基本法の傘下にアセス法がおかれており、その他の環境法においてもアセスメントは規定されていません。
アセスメントに関わる官庁の行政組織における位置づけにおいても、複数の省庁よりも一つ上の立場からNEPAの手続きを見直すことができるアメリ
カの行政組織に対比して、日本の場合は省庁と同じ立場にある環境省がアセス法における規制等を行っている点においても、日本のアセスメント
制度の強制力が弱いことがわかります。