(1) 横浜市の河川における水質分析


(研究概要1)

横浜市の主要河川の72地点の亜鉛(Zn)濃度を測定し、2003年日本で新たに設定された水生生物の保全に係る亜鉛の水質環境基準値(0.03 mg L−1)と比較した。下水処理場がある鶴見川と境川の57地点の亜鉛濃度は、0 - 0.04 mg L−1の範囲であり、2地点においては水質環境基準値を超過していた(図1)。河川の亜鉛濃度に及ぼす下水処理場と吐き口からの放流水の影響を明らかにするために、11ヶ所の下水処理場と吐き口からの放流水の亜鉛濃度とその放流地点からの上流・下流の亜鉛濃度を重回帰分析で解析した。その結果、横浜市の流域の面積の大部分を占めている市街地(関連資料:図2)から発生する面源・移動発生源・ノンポイント汚染源とも呼ばれている非特定汚染源負荷(Nonpoint Source Pollution)の一部が下水処理場と吐き口の放流水を通じて横浜市の主要河川の亜鉛負荷に影響を与えた可能性が示唆された。

 

図1. 横浜市の主要4河川(鶴見川、帷子川、大岡川、境川)における亜鉛濃度(矢印:下水処理場と吐き口からの放流水)

 


図2.横浜市の緑の減少(出典:横浜市)

 

なお、河川のpHが低いほど亜鉛濃度が高い傾向が示された(図3)。この結果より、雨天時のうち特に酸性雨の降下によって流域の土壌(特に土壌酸性化が進行している森林や畑地)に含まれている亜鉛が酸性下(pH6以下、亀井・渡辺,1974)で溶脱して河川に流れ込んだ可能性と横浜市の流域の面積の大部分を占めている市街地(関連資料:図2)の面源・移動発生源・ノンポイント汚染源に注目したい。横浜市における酸性雨のpHについては、実際pH3まで観測されたこともある(加藤,2005)。しかし、ここで見抜いてはいけないのが河川のpHである。実際河川のpHは6以下にまで下がってはいない。どうして何でしょうか?その原因については、都市域を含めて陸地生態系を構成している流域の土壌や人工構造物等は酸性雨に対してある程度中和する能力を持っているためであり、その代わりに主な交換性陽イオンであるCa2+, Mg2+, K+, Na+だけでなく、重金属のAl3+, Fe3+, Fe2+, Mn2+, Zn2+, Pb2+, Cu2+, Cd2+等も溶脱して河川にまで流れ込む一連の過程などが取り上げられる。もし河川のpHが6,5,4以下の酸性になった場合、その時点で陸地生態系はかなり酸性化が進んでおり、実に人間を含む動物や植物などの生命体にとって住みにくい環境になる可能性が高い。今後、我々の身近な環境の実態を把握するため、モニタリング調査と分析を行うことは大変重要なテーマである。

 

図3.横浜市内の河川における亜鉛濃度とpHの相関(R:スピアマンの順位相関係数(Spearman's rank correlation coefficient)、**:1%水準で有意(両側)、SPSS 19)

 

(研究概要2)

現在、日本における公共用水域の水質の測定は「水質汚濁防止法」(昭和45年12月制定)に基づき実施されている。採水に関しては、「採水日は採水日前において比較的晴天が続き、水質が安定している日を選ぶこととする」と記されているが、晴天時のみの水質調査結果のみでは、雨天時の水質の実態や河川、湖、海への汚染物質の総負荷量について把握できない。合流式下水道とは、汚水と雨水を同一の管路で水再生センターまで排除する下水道であり、分流式下水道とは、雨水はそのまま公共用水域に放流し、汚水のみを水再生センターで処理する方式の下水道である。合流式下水道の処理方式では、雨天時・融雪時にはポンプ場や雨水吐から一定量を超える汚水が未処理のままで公共用水域に放流され、水質の悪化を引き起こすという問題がある。これに対し、分流式下水道では、雨天時の場合でも汚水は個別の管路を通じて水再生センターへ運ばれるため、合流式下水道の処理方式より河川水質に与える影響は少ないと思われる。しかし、雨天時における下水道方式の違いが河川水質に与える影響について未だに十分なデータがない。本研究では、横浜市の鶴見川の支流の一つである早渕川を対象として、合流式下水道と分流式下水道が、雨天時と晴天時において河川水質へ与える影響を調査・分析し、下水道方式による違いが河川水質に与える影響について水質調査項目の濃度と有機汚濁の負荷量から調べた。
調査対象河川は、鶴見川の支流の早渕川(はやぶちがわ)とし、採水は、主に分流式下水処理方式を採用している都築区の吐き口(S2)とその上流部(S1)、下流部(S3)の3地点で行った。さらに、主に合流式下水処理方式を採用している港北区の吐き口(S5)とその上流部(S4)、下流部(S6)の3地点の計6地点で行った(図4)。

なお、吐き口とは、雨天時に合流式・分流式下水道から河川へ放流するための放流管である。また、吐き口上流部と下流部で取水した理由は、吐き口の放流水、上流部、下流部の水質の相違点と汚濁負荷(BOD)の影響を定量的に評価するためである。

 

図4. 川の調査地点と下水道区域(横浜市の北部)

 

(結果)BOD測定結果は、雨天時と晴天時の水質比較では、S2地点を除いてすべての地点で雨天時が晴天時の値より高く、雨天時が晴天時より水質が低下していることが分かった(図5)。BOD濃度の結果から、雨天時に一部の汚水と雨水が合流式下水道の雨水吐越流水として放流された可能性が考えられる。

 

図5. BOD測定結果(分流式下水処理方式の吐き口(S2)とその上流部(S1)・下流部(S3)、合流式下水処理方式の吐き口(S5)とその上流部(S4)・下流部(S6)

 

 2008年の早渕川の調査地点におけるBOD負荷量の算出結果では、雨天時のBOD負荷量は晴天時より1.7倍高い値を示した(図6)。河川のBOD負荷量に対する分流式・合流式下水道の吐き口の放流水由来のBOD負荷量は、それぞれ1%・7%(雨天時)、7%・22%(晴天時)を示した(図6)。なお、雨天時・晴天時の分流式下水道の吐き口の放流水由来のBOD負荷量の算出結果は、合流式下水道の放流水由来のBOD負荷量に比較して各々80%(雨天時)、69%(晴天時)少なかった。

 




図6.調査地点におけるBODの負荷量

 

(考察)

本調査結果は、降雨により河川水質が顕著に変化していることが明らかになった。したがって、雨天時・晴天時の河川水質の全体像や河川、湖、海への汚濁負荷量を把握するためには、雨天時・晴天時のいずれの水質も考慮するべきであると考えられる。なお、雨天時の河川のBOD負荷量は、晴天時より1.7倍高い結果が得られたことから、今後雨天時の合流式・分流式のいずれの下水道由来の汚濁負荷量の削減に関する対策を流域の単位で設けると共に、都市化が進んでいる首都圏を中心に日本全国の大都市の自治体が近年進めている雨水流出抑制施設(貯留池、雨水利用施設など)の設置制度の導入は雨天時のBOD負荷量の削減に期待される。
本調査による分流式下水道の吐き口の放流水由来のBOD負荷量の算出結果が合流式の結果より顕著に少なかった原因については、①合流式に対する分流式の放流水の平均流量が約30%にすぎなかったこと、②BODの平均濃度が1.1ppm低かったことが挙げられる。今後、引き続き集水域の面積を調べ、同面積での比較などを分析していく必要がある。
分流式・合流式下水道の吐き口の放流水による河川BOD負荷量への寄与率は、年間を通じて雨天時よりも晴天時の放流水による寄与率が高かった。本来、晴天時には生じない分流式・合流式下水道の吐き口の放流水(不明水と称する)が、調査期間中常に検出された。不明水は、分流式・合流式下水道への浸入水、路上排水などが主な原因であると考えられる。本調査では長い場合には、11日間晴天時が続いても不明水が検出された。不明水は、いずれの下水処理方式においても、晴天時の河川水質にも影響を与えていると考えられる。

戻る    次へ